揺れる心の錬金術師のブログ♪
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マビノギ小説 Passion Play ~あるミレシアンの手記より~ 第8話
第8話 Division Bell Guild ~運命の鐘ギルド~

 オースティンはやや緊張した表情になりつつも、ゆっくりとした口調で話し始めた。
「私からのお願いというのは、最近ダンバートン西の露店街に出没する『スケルトン爆盗団』の殲滅をお願いしたいのです」
「『撃退』、ではなく『殲滅』ですか?」
キャスタリアはオースティンから出た意外な言葉を再度質す。
「左様、殲滅で結構です。以前はほとんど出没が無かったのですが、突然ダンバ西の露店街で爆発テロが多発し始めまして・・・。賊は自爆スケルトン(注:スケルトンウィキッド)をローブなどでばれないように潜入させ、頃合いを見計らって自爆。露店街が大混乱に陥ったと同時に北西と南東方面から巨大スケルトンドッグ(注:スケルトンヘルハウンド)に騎乗した小さいスケルトン達(注:ミニレッドスケルトン・ミニメタルスケルトン)が弓による騎馬射撃やスピアによる騎馬突撃で更に混乱に追い打ちをかけ、ラビ方面から現れたスケルトンの集団が金品財宝を強奪するという事が度々起こっているのです」
「スケルトンといえばラビ・・・でも、スケルトンヘルハウンドというたらマスやない!ってゆーことは、ラビとマスを統括するポウォールの指揮官が出てきたんやろか?」
ずっと黙っていたジェラルディンが口を開く。
「冒険者協会のエヴァン、そしてダンバートン聖堂のクリステル司祭の情報では、ラビに上級クラスのサキュバスが着任して、サキュバス戦隊を取りまとめ、ラビ・マス共々動きを活性化させていると聞いています」
「上級のサキュバス!ブラック・レッド・イエロー・ピンク・ホワイトのサキュバス以外に彼女達を取りまとめられる上級ランクのサキュバスがいたとはねぇ・・・」
オースティンの言葉を唸りながら聞き入るキャスタリア。そして何かを考える仕草を始めてあらぬ方向に視線をやりはじめる。
「我々も冒険者協会の協力を得ながらミレシアンギルドに依頼して爆盗団討伐を何度か行っていたのですが、トカゲのしっぽ切りが続きまして・・・」
「本隊をとっちめることがでけへんかった、ちゅーわけですね」
「はい。ポウォールも戦い方を心得ており、我々が進めば奴らは退き我々が退けばポウォールが進むといったイタチごっこが続いておりまして…。その隙をついて別働隊が露店街を襲撃するという事がありまして、我々も手を焼いているのです。爆発テロとその後の騎馬攻撃による人的被害も甚だしく、幸い死者は出ていませんが重傷者が続出し、マヌスのヒーラーの家が一時野戦病院の状態になった事もしばしばなのです」
「聞いてるだけで怒り心頭やで、キャッシー!ウチらでどないかしよ!ラビとマスの骨いてこまして、家賃がロハ(注:只←分解してロハ…タダという意味)になるんやったら一挙両得やない!世の為人の為に働いてウチらもハッピーやし!」
ジェラルディンが黙考を続けるキャスタリアに決断を促す。するとキャスタリアはやおら、
「オースティンさん、盗賊の情報等は冒険者協会にあるのです?」
「ええ、エヴァンがクリステル司祭の協力のもと全力で情報収集を行っている所です」
「冒険者協会か…なら、おいら達もギルドとして行動した方が色々恩恵を受けられるということですね?」
「言うまでもありません。ミレシアンギルドなら、冒険者協会を通じて様々な情報提供などで協力できると思います。それに、現在大多数のミレシアンギルドが影世界のタラで戦闘中ですので、少しでも多くのミレシアンギルドがこのダンバにいてくれる事はダンバートン市民にとって安心できる材料だと思います」
オースティンの言葉を聞いて、キャスタリアの表情が一変した。コール村にいたのんびりした表情ではなく、かつて王政錬金術師として名を馳せていた頃を彷彿させるような顔に一変していた。自然とジェラルディンとルイトガルトも表情が引き締まる。
「ジェラルディン、おいら達のなすべき事は決まったね。まずはギルド結成、そして爆盗団殲滅の作戦を立てる事、そして…念願のカクテルバーゲットだよねっ♪」
引き締まった顔で話し始めたが最後の一言で一転、いつものニコニコパーなキャスタリアの表情になって片目でウィンクしてみせる。この落差にその場にいた全員が目が点になるが、その後4人そろって不敵な笑みを浮かべていた。
「頭取、見込みありとみはったんですね!」
ルイトガルトがすかさず訊ねると、
「無論です。私はアスキン銀行の支店長ですがダンバートンの代表という立場でもあります。それ故に様々な人達と会いますが・・・あなた方は今までにない方々です。珍しく私までが落ち着かなくなってきましたよ」
オースティンが沸き上がってくる興奮を抑えて冷静な口調で応える。
「では、ギルド結成の件はエヴァンに私からも伝えておきましょう。広場の熊退治の鮮やかさを見ていると、あなた方ならこの難問をいとも簡単に解決してくれるような気がします。ダンバートンの市民になり代わってお願いします」
オースティンは真剣な眼差しでキャスタリア達に話す。
「おいら達も果たしてご期待に添えられるかは分からないですが、全力であたっていきます。支店長、何か動きがあれば連絡をお願いいたしますね」
「承知しました」
キャスタリアはオースティンと握手をすると、決意を新たにジェラルディンとルイトガルトを連れて銀行の外へ出た。
「キャッシー、いよいよギルドやな。そして賊退治。ええ感じやでぇ~」
ジェラルディンはいつもの活気が戻ったダンバートン広場露店街に視線をやりながら、ふーっと深呼吸をするキャスタリアに声をかけた。
「うん!勢いもあったけど、誰かがやらねばならない事だったしね!」
キャスタリアはそう言ってニマッと笑う。そこへ、一人の女性が声を掛けてきた。
「あなた方が・・・先ほど熊退治をされた方々、ですよね?」
「せやで!遠路はるばるコール村から来てくれたんやさかい!よーみときぃや!」
ルイトガルトがその女性にキャスタリア達を紹介すると、女性は何やら紙切れを差し出した。
「はじめまして!私、こういう者です」
その紙切れ・・・リアルでは名刺と呼ばれるものだが・・・そこには
『エリンウォーカー編集部 ダンバートン支局長・ヴァイマル』と書かれていた。
「エリンウォーカー・・・?」
「はい、エリンの各地で起こっている情報を掲載している情報誌なのです。他にも各地域の露店の相場なども掲載している経済誌や、エイリフ軍の作戦進行状況なども知らせる軍事誌も出版していていち早くエリンの現状を手にとるように掴める雑誌を作っている編集部の記者ですよ。私はダンバートン支局長のヴァイマル。あなた方と同じミレシアンです。よろしくです」
そう言ってにっこり笑うヴァイマル。テンガロンハットにライダーススーツという、記者らしからぬ服装だが、話している事は真実であるというのは目を見てすぐに分かった3人。
「今回、あなた方にお声をおかけしたのは、密着取材をさせて頂きたく・・・」
ヴァイマルがそう言いかけると、背後からヴァーリャが声を掛けてきた。
「キャッシー、姉貴(注:ジェラルディン)、ルイちゃん!みんな聖堂にいるからこっちに来てくれ!」
「うん、わかった。すぐに行くよ!ジェラルディン、ルイトガルトさん。お先に聖堂に行っていてくれます?」
「あいよ!あんたもはよきーや!」
「うん!」
ジェラルディンはルイトガルトを促してダンバ聖堂へと向かっていく。
「ごめんなさいね。えーと、おいら達を密着取材・・・って、おいら達は全然問題ないのですけど、これから色々と危険な所に行かなくちゃならないのですよ。そういう状況でも大丈夫ですか?」
キャスタリアの言葉に目を輝かせるヴァイマル。
「取材OKですか!?ありがとうございます!私はエリンのジャーナリストですけどミレシアン錬金術師のはしくれです!自分の身は自分で守れますよ」
「錬金術師さんですか!」
「お恥しながら・・・。あと、スケッチは天賦の才というのでしょうか、素早くきれいに描けるのが取り柄でして。タラのハンス画伯には及びませんが早さなら負けません!雑誌に挿絵を入れるのは編集者としての責務ですし、『百聞は一見に如かず』というリアルのことわざもある事ですしね」
ふふと笑って見せるヴァイマル。
「わかりました、そう言う事ならご自由にどうぞですよ。おいらの名はキャスタリア、よろしくです」
キャスタリアはヴァイマルに握手を求めると、
「こちらこそ、取材許可ありがとうございます!」
と手を差し出すヴァイマル。
「さて、今からギルド結成を行うのですが・・・いい取材になりそうですね!」
キャスタリアがそう言うと、ヴァイマルの表情が変わった。
「なんと!私、今日は本当にラッキーだわ!熊退治の現場に出くわして、熊退治の英雄達がギルドを設立・・・。キャー!」
ジャーナリストの顔になって取材の段取りを始め出すヴァイマルに、
「それじゃ、みんなを聖堂で待たせているので行きますね。聖堂で結成式を行いますよ」
と言い残して、キャスタリアは聖堂へと向かった。

「おかえり、キャスさん!」
リーローがキャスタリアを聖堂の入り口で出迎えてくれる。
「ありがとう、リーロー。後からおいら達を取材する雑誌の記者さんが来るから、その人も中に入れてあげてね」
「姐さん(注:ジェラルディン)から聞いていますよ。それと、熊に吹っ飛ばされた少年。彼もギルドに入れてほしいって言っていましたけど・・・。彼、錬金術師みたいですね」
「!!!!!」
予想外の展開にキャスタリアに笑みが浮かんだ。
「リーロー、これで5人行けない?」
「ギルド結成ですよね・・・あ!いけますね!私、キャスさん、ヴァーリャ、姐さん、そして錬金術師の少年・マイツェル。揃いましたね!」
「オースティン支店長の話はジェラルディンから聞いているよね?」
「ええ、全て聞いています。私もそう言う事なら全力で尽くさせて頂きますよ!それに、クリステル司祭からも、ラビとマスを鎮めて、ダンバートンの安寧を確保してほしいと懇願されていますし」
「だよね!司祭のお気持ち、よくわかるよ・・・」
そう言っていると、ヴァイマルが聖堂内に入ってきた。
「お待たせしました!さ、私には気になさらず続けてください」
息を切らせて入ってきたヴァイマルだが、すかさず聖堂内のスケッチを始めている。
「すごい方ですね・・・」
リーロー、ヴァイマルの取材熱に感心しきりだったがキャスに祭壇に来るように呼ばれてクリステル達が居る祭壇に向かう。
「キャスタリアさん、オースティン支店長のお話は聞かせて頂きました。あなたはダンバートンの災厄を払いのける為にライミラク神が遣わされた神々の御剣・・・いえ、女神モリアンに見初められし祝福されたミレシアンなのかもしれません。それ故、このダンバートンにお越しになられた事も、またこうしてあなたとならどこにでも行ってくださる方々が集まってくる事こそ、女神モリアンの意思なのかもしれません。そして、ここにいるみなさんは、本当のあなた自身を探す旅にも命を賭して共に行動されるとか。みなさんからお話を聞かせて頂いて、私もこの場所でそしてこの目で、その仲間達のギルドが結成される瞬間を拝見させて頂きたいと思い、無理を言ってお願いしました。絶望的な状況から立ち上がり、今こうやってこの場におられるキャスタリアさんのギルドなら、不可能を可能に出来るでしょう。以前、ここを訪れた王政錬金術師も同じことを言っておられました。…きっと、以前のキャスタリアさんでしょうが…私もその王政錬金術師の方に励まされ、賊の襲撃で疲弊するダンバートン露店街の復興に全力で協力してきました。その不可能を可能にする転機、それがこのギルド結成だと私は感じています。様々な困難が待ち受けているとは思いますが、あなた方だけが戦っているのではありません。他にも同じミレシアンギルドやエイリフ王国・そしてライミラク教団、さらにはイリアの民もいるのです。恐れず、前に進んで行かれることを願います」
クリステルは結成式を前に、キャスタリアに静かに語った。キャスタリアは瞑目していたが、
「司祭、おいらは選ばれたミレシアンかどうかはわかりません。でも、おいらは真実が知りたいし、目の前に困っている人がいれば見捨てるなんて事はできません!それに、おいらはミレシアンだけど一人のエリンの民です。神の名において・・・なんてことはおこがましいですし、今回の賊退治もカクテルバーが無料で使えるという下心あっての行動です。でも、結果として人助けになるならそれもありじゃないかな?と思って行動に移しただけの事です。でも、受けたからには全力でやり遂げるつもりです!」
「それでいいのです。昔のとあるトゥアハ・デ・ダナンは『人とは欲に手足が付いたものだ』と言っていたそうですが、まさにその通りだと思います。みなさんご存じでしょうが私だって、ここまで来るには色々とありましたから。堅苦しく考えず、まず目の前の困難に対処することが大事ですよ。欲があってこそ人は動く、無欲であれば動く事は無くなります。ポウォールを退治してエリンの安寧を求める、これも欲ではないでしょうか?欲が罪悪であると考えるのなら、それは悔いあらためるべきだと思います。欲は必要悪である、こう考えるべきだと思いますよ。動機が不純だ、などと思わずあなたが思う道を進む事は女神モリアンも望んでいると思いますよ。気になさらず、突き進まれる事を願います。それはお仲間さん達も思いは同じ。さぁ、キャスタリアさん・・・」
クリステルの後押しを受けて、キャスタリアは腰に下げていたライトニングワンドを高々と掲げた。それに呼応するかのようにジェラルディンもフェニックスファイアワンド、ヴァーリャはレザーロングボウ、リーローはブロードアックス、そしてマイツェルはタイダルシリンダーを掲げた。
「キャスタリアの名において、ここにギルドを結成する!ギルド名は『Division Bell』運命の鐘ギルドだよ!幾多の困難があろうとも、おいら達は必ず助け合って乗り越えてみせる!このエリンに、運命の鐘を鳴らそうじゃない!そして、本当のおいらを必ず探し出して、みんなと一緒に決着をつける!でも・・・その前に、カクテルバー確保だよ♪」
キャスタリアの最後の一言に全員が反応して大爆笑が巻き起こった。その光景を見ていたルイトガルトは無論、取材メモやスケッチに大忙しのヴァイマルも腹を抱えて笑いだし、クリステルも口元を押さえて笑っていた。

この瞬間、ギルド『Division Bell』が結成された。ギルドマスター・キャスタリア、サブマスター・ジェラルディンという構成である。そしてギルドが、神出鬼没ラビ爆盗団にどう挑むか・・・。上級サキュバスとは何者か?ダンバートン西に戦機が熟し始める・・・。
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マビノギ小説 Passion Play ~あるミレシアンの手記より~ 第7話
第7話 ダンバートン

「着いたよ、ダンバートンに・・・」
キャスタリアは感慨深げにダンバートンの街並みを眺めていた。ラッパ村でオストヴィントと会ってからというもの、何かにとりつかれたように自ら率先してダンバートンへ行く準備を急ピッチに進めて、ヴァーリャやジェラルディンを唖然とさせていたが、コウサイはそんなキャスタリアを温かく見守っていた。更に、コール村で新たな仲間・ジャイアントの女戦士・リーローも合流していよいよダンバートン行きにも拍車がかかってきた。リーローも各地を放浪して自らの腕を磨いていたのだが、ザルティン・ラスパ火山で黒ヒョウの群れと対峙し苦戦していた時、オストヴィントの助勢を借りて見事に撃破した経緯があり、そのオストヴィントからコール村にいるキャスタリア宛に荷物を届けてくれないかと言伝を頼まれたことから、コール村へ来たのであった。リーローはキャスタリアの人柄に惚れ込み、またヴァーリャ・ジェラルディンともすぐに打ち解け、キャスタリアの過去を聞いて思わずこの女戦士も涙してしまい、キャスタリアの為なら犬馬の労も厭わない!とオストヴィントゆずりの言葉でキャスタリア達に仲間に加わった、涙もろく情に熱い心優しいピシスの女戦士である。ちなみに、キャスタリアが受け取った荷物とはカリスウィザードスーツであった。荷物の中には手紙が入っており、
『すぐに着ないのはお前の性格から分かっている。これを一日でも早く着られるように、仲間達と力を合わせて励め!頑張っているお前に頑張れというのは、万死に値する。しかし、猪突猛進は慎め、慎め。仲間達とよく話し合い、何をすべきかを導き出すのだ。おのずと道は開かれる。道は無くなれば、また作ればいい。この言葉、忘れるべからず』
と書かれており、キャスタリアはその手紙を一読すると目を閉じていたが、自分の心を理解してくれているオストヴィントの優しさに、あふれる感涙をこらえるのが精一杯だった。
キャスタリア達はジェラルディンの妹・ルイトガルトがダンバートンで貸店舗を探している事に便乗して一緒にお店を探す事が決まり、キャスタリアの体調も長旅に耐えられる程に回復したことを見計らって、いよいよダンバートンに向かう事が決まったのだった。
 旅立ちの朝、コール村にはキャスタリア達を見送る村民達の姿があった。
「キャスタリアよ、いつでも戻ってくるがいい」
「ありがとう、コウサイ村長。これでお別れじゃないし、おいらの自分探しの中でここにも何度も足を運ぶと思うから・・・。さよならじゃなくて、行ってきますって言うね」
「うむうむ」
微笑みながら頷くコウサイ。
「キャスタリアさん、また戻ってきて下さいね・・・」
寂しそうに微笑むクシナに、
「クシナ、おいらはまた来るよ。ダンバートンに行っても、またここには帰ってくるから。ここはおいらにとっての第二の故郷だしさ。でも、あの苦いお薬湯は勘弁だよ」
苦笑するキャスタリアに、
「クシナ、遠慮することはないさ。キャッシーに毎週送りつけてくれてもいいんだぜ!」
ヴァーリャがそこに突っ込みを入れると、すかさずライトニングボルトの詠唱を始めるキャスタリア。
「ひぃ・・・もう言いません!」
その光景に一同がドッと笑う。
「キャスタリア、我意を張り過ぎるな。驕りは身を滅ぼす。ラッパ村の事を肝に銘じて、仲間達と共に助け合うのだ」
ヴォヴォカが言葉少なに、餞の言葉を贈る。
「うん、わかっているよ。おいら、ダンバートンに着いたらギルドを結成しようと思っているんだ。おいらには仲間がいるんだし、そのみんなとも相談してギルドを立ち上げようって話し合ったんだ。ギルドを結成することで他のギルドとの交流も増えるし、色々な事も分かってくると思うしさ」
「己の信じる道を進むがよい、キャスタリア。仲間達はお前と共にあるのだ。如何なる困難があろうと、絶望的な状況から這い上がってきたお主なら、必ず乗り越えられる。ヴォヴォカの言を借りるわけではないが、今は仲間がいるのだ。仲間を信じ、助け合うのじゃ」
コウサイが諭すようにいうと、決然とした表情で黙って頷くキャスタリア。そうして、キャスタリア達はコール村からダンバートンへ向けて旅立ったのだった。マナトンネルでケルラ港へ向かい、そこから船でケアン港へ。そこからバンホールを経由しダンバートンへと向かったのだが・・・。センマイへ通じるガイレフ三叉路でフィアードダンジョンと対峙しているジャイアントオーガとスケルトン兵士が率いるポウォールの集団を目撃し、肝を冷やしながらダンバートンへ向かった。圧倒的な数の敵は旅の途中で疲れきっているキャスタリア達にとって負ける戦いなのは確実と踏まえて、現実的に退避行動に移ったのだ。ただ、ポウォール支配下のフィアードダンジョンがポウォールの軍勢と対峙していた事に、キャスタリア達は一抹の不安をぬぐい去れなかった。もしや、フィアードが火種に戦いが始まるとなると。ダンバートンにも戦火が・・・。しかし、キャスタリア達はダンバートンを目の前にしてその不安も片隅に追いやられてしまった。念願のダンバートンへようやく到着したのだ。オストヴィントがキャスタリアに示した場所、ダンバートンへ・・・。
「ん~と、ウチの妹とはペガサスの銅像前で待ち合わせしてたんやけどねぇ・・・」
ジェラルディンがキャスタリア達を待ち合わせ場所に向かおうと広場の南の通りを歩いていると、広場で露店を開いているミレシアン達に衝撃が走った。何者かがうずまき丘のクマの群れを調教して乱入させたのだ。広場は大パニックに陥り、買い物客達は我先にと逃げ出しにかかる。熊たちは咆哮をあげて我が物顔で広場を歩きまわっている。そこに、一人の勇気あるミレシアンの少年が熊たちに立ち向かったが、別の熊が背後から攻撃しかけ、猛烈な体当たりを食らわせて見事にそのミレシアンを吹っ飛ばした。そのミレシアンは吹き飛ばされてピクリとも動かない。気を失っているようだった。熊たちの背後から、数人の笑い声が聞こえる。数名のミレシアンがニヤニヤしながら熊たちを操っているようだった。
「許せない・・・絶対許せません!」
その光景を一部始終見たリーロー、完全に頭が血に上ってブロードアックスを手にしてゆっくりと熊たちに向かっていく。既にキャスタリア達の制止する言葉も耳に入っていない様子だった。
「リーロー!せめてここじゃなくて、北門か南門外で始末してあげて!」
キャスタリアの悲鳴にも似た声はどうにかリーローに届いたらしく、軽く頷いたのが見えた。リーローはまず全ての熊めがけて石をなげつけ、標的を自分に仕向けた。10匹ほどいる熊全てに石を投げつけると、自分の馬を呼び即座にダンバートン北門へ駆けだしていった。熊たちは獲物を逃がしはしまいと牙を剥いてリーローに向かっていく。その予想外の展開に焦りだしたのは熊を連れ込んだミレシアン達であった。突如現れたメイド服姿のジャイアントの女戦士が石を投げつけて全ての熊をダンバートン城外へ引っ張っていったのだ。彼らは慌てて追いかけようとするが、そんな彼らをキャスタリア達は見逃すはずはなかった。
「ふっふっふ~、ヴァーリャ特製の超小型弓の出番だな!悪戯も度が過ぎると、モリアンじゃなくてネヴァンから天罰が落ちるって事しっかり教えてやんよ。イリア仕込みのお仕置きだべ~」
ヴァーリャはそう言いながら、手のひらに入りそうな特製の弓で針を射る態勢に入った。その針には、何か塗ってあるようだった。
「ヴァーリャ、あれ?」
「だよん、キャッシー。ああいう連中は、ダンバートンのみんなにとっちめられる前に、ちっとばかし怖い思いをしてもらわなくちゃね」
「あはは、ええザマやわ。おバカどもにはええ薬やな!」
キャスタリア達はヴァーリャの射る様をニヤニヤしながら眺めている。熊出現の一報を受けてアスキン銀行ダンバートン支店長・オースティンは素早く指示を出し、露店主やミレシアン・トゥアハ・デ・ダナン達へ城壁の上に避難させていたこともあって、城壁の上から鈴なりになりながら遠巻きでその光景をみているミレシアンやトゥアハ・デ・ダナン達が唯一広場に残っているキャスタリア達と熊を連れ込んだミレシアンの一団の行動を見ていた。
「よしゃ、連射で決めてやる!」
ヴァーリャは言い終わる前に1本目を発射し、立て続けに針に何かを塗りそしてまた射る。プッ、プッと鉄製の小型弓の弦をしならせる。そのたびに、ミレシアン達は首筋や肩、太ももに何か刺さったかのような行動を見せるが、その途端崩れるように倒れ込みいびきをかいて寝始めた。
「よーし、ラストだ!」
最後の針を射ると、倒れ込んだミレシアン達の許へ向かうヴァーリャ。
「キャッシー、ジェラルディン!ばっちりだぜ!さすがコウサイ村長直伝だな!」
「ヴァーリャ、御苦労さま。ダンバートンに来ていきなり市場荒らしに遭遇するとは思わなかったけど、こいつらにはきついお仕置きをしてもらうといいよね。今はおいら達からきっつ~いお仕置きの最中だけどね」
ぐーぐーいびきをかいて寝ているミレシアン達を見てほくそ笑むキャスタリア。
「コール村特製の深い眠りと恐ろしい幻覚を見せられる、子供たちへのお仕置き用の薬がここで役立つんやなぁ。世の為人の為って柄やないけど、こういうアホタレにはええ薬やわな!」
ジェラルディンがそう言うと、城壁上から拍手喝采が沸き起こった。今度はキャスタリア達が予想外の展開に焦り始めるが、リーローが満足そうな顔をして戻ってきた。
「キャスさん、熊たち全て始末しましたよ。ハーブとか色々落としたので店を荒らされた方達に分けてあげてもいいですか?」
「うん、そうしてあげて!ヴァーリャ、リーローと一緒に広場の片づけ手伝ってあげて。ついでに、あそこでのびちゃってる子も介抱してあげてね。おいら達はルイちゃんと会って、貸店舗の家主と話してくるから!」
「ルイちゃん?あぁ、姉貴の妹か・・・。OK、ここは俺達に任せな!」
キャスタリア達はヴァーリャ達にその場の始末を任せて、待ち合わせ場所の銅像に向かおうとするが、城壁上からジェラルディンを呼ぶ声が聞こえてくる。
「姉ちゃん達、メチャメチャやなぁ。あんな熊相手にようやらかすわ!でも、あいつら度々露店を荒らすんでミレシアンギルドに警備をしてもらってたんやけど、そん時はけぇへんでおらんようになったらすかさず来よって荒らしていくんやわ。おおきにやで~」
まくし立てるその声の主は大急ぎで城壁を駆けおり、キャスタリア達の前に走ってきた。
「はぁはぁ・・・。ダンバートンへようおこし!ウチがルイトガルトや。あんじょうよろしくやで!ほな、さっそくオースティンさんトコいこか!ウチが目ぇ付けてた貸店舗がバーやったさかい、オースティンさんが腕ききにバーデンダーじゃないと店貸さへんゆーてるから・・・。姉ちゃんの手紙見て、キャスタリアさんの腕前やったらオースティンさんもイチコロやわ!」
ルイトガルトはキャスタリア達を会うなり更に一気にまくし立てる。その勢いに圧倒されて一言も言えないキャスタリア。
「キャッシー、妹はこないな調子やけど気にせんといてな。めっさせっかちやから・・・」
「ううん、大丈夫だよ。いきなり畳みかけられたからおいらも圧倒されちゃったけど・・・。なんだか条件が面白いよね!よーし、挨拶代わりのカクテルを名刺代わりに持って行こうっと!」
キャスタリアはそう言うと、広場から離れて本来の待ち合わせ場所の銅像前まで移動して、カクテル作りに入った。
「お、即興で作るん?」
ジェラルディンがキャスタリアのカクテル作りを楽しそうに眺めながら訊く。ルイトガルトも興味津津で見ている。
「うん!オースティンさんは仕事中みたいだから、ノンアルコールカクテルで勝負しようと思ってね!」
キャスタリアはラズベリーシロップとライムジュース、砂糖と氷を手慣れた手さばきでシェーカーに入れてシェークを始める。シャカシャカしている様は絵になるのか、ルイトガルトは飽きもせず見ている。やがてシェークが終わり、カクテルグラスに氷と共にシェーカーから注ぎこみ、ガイレフで摘んだ木苺を3つばかり浮かべた。
「よーし、完成!これをオースティンさんに持って行ってみよう!」
ニンマリ笑いながらキャスタリアはルイトガルトを促してアスキン銀行ダンバートン支店へと向かった。店内は先ほどの混乱がひと段落したせいか、再び銀行内は露店の許可証を発行してもらったり換金してもらったり、預金や出金などいつもの銀行内の情景に戻りつつあった。そんな中を悠々とすりぬけ、ルイトガルトは窓口の女性に一言二言話した。すると女性はキャスタリア達をカウンター脇へ通して、銀行の奥の部屋に通してくれた。そこは古ぼけたソファーとテーブルがおいてあり、壁には女神モリアンの肖像画が掛けられていた。
「なんかドキドキするなぁ・・・面接するみたいだよ」
キャスタリアが緊張している様を見て、ジェラルディンが思わずニヤリと笑う。
「あんた、変なトコで緊張するんやな。うちらは客やで!緊張してどないすんねんな!」
ジェラルディンがそう言い終わらないうちに、部屋の戸が開いて初老の人物が入ってきた。
「お待たせしましたね・・・。と、その前に。先程は熊退治、ご苦労様でした。いつもならミレシアンギルドが多数いるのですが、現在影世界のタラで大規模な掃討戦を実行しているらしく、多くのミレシアンギルドも招集をかけられて作戦に参加しているのですよ。熊を操った連中はそれを見越して、再びやってきたものでしょうが・・・いや、あなた方のお陰で助かりました」
オースティンはほっとした様子で感謝の言葉を言う。
「いえいえ、大したことはしてません。ただ、ああいう連中がのさばるのはどうしても許せないものですから・・・。と、これはおいらの名刺代わりに召し上がって頂けますか?」
キャスタリアは謙遜しつつ、先ほど作ったカクテルをオースティンに差し出す。
「ほぉ、カクテルですか・・・しかし・・・」
「心配ご無用。ノンアルコールに仕上げていますよ」
にっこり笑うキャスタリアの言葉を聞いて、安心してそのカクテルを飲み始めるオースティン。まずは口に含んでゆっくり味を確かめつつ喉に流し込み、その後一気に飲み干した。その様子を見て不敵に笑うキャスタリア。
「これは・・・ダミー・デージーですな」
「その通りです。デージーと見せかけてノンアルコールのデージーを作ってきました。デージーならスピリッツに甘酸味とソーダを入れたものですけど、お仕事をされているので・・・。いちいち自己紹介するより、カクテルの味で紹介した方がお酒好きの支店長さんなら話が早いと思いましてね」
キャスタリアの言葉の一言一言に頷いて見せるオースティン。
ジェラルディン・ルイトガルトの姉妹はこの会話に全く付いていけずただただ黙っていたが、脈ありというのは感じ取っていた。
「参りましたな、あなたのようなお客様は初めてです。あの貸店舗のバーは、いい腕前のバーテンダーがお店をやっていたのですが、突如として失踪してしまい店は閉店になってしまったのです。私もその店の常連で、出来るならあの店でまた美味しいお酒を飲んでみたいと思いまして、私財を投じて店を買い取り、腕のいいバーテンダーにお店をお任せしようと思っていた次第なのですが・・・、まさか名刺代わりにカクテルをお出しする方がいるとは思ってもいませんでした。この味なら、あの店をあなたにお任せしてもいいと思っています・・・が、私の依頼を受けて頂けないでしょうか?この依頼に成功したなら、家賃は無料としましょう」
「!!!!!」
家賃無料と聞いて、3人は色めきたった。
オースティンの依頼とは何なのか?千載一遇のチャンスをキャスタリア達は物に出来るのか?家賃無料を賭けた駆け引きが続く・・・。
マビノギ小説 Passion Play ~あるミレシアンの手記より~ 第6話
第6話 蠢動する亡者

エイリフ王国直属ミレシアンギルド『砂漠の狐』ギルドマスター・モンタナからタルティーン防御戦『春の目覚め』作戦の一部始終を聞き終えたハダットは満足そうに頷くと、
「うむむ、儂の血がまた騒ぎだしたわい!」
と、興奮冷めやらぬ様子でいた。
「もう少し若ければ、アンドラスに言って影世界へ行ったものじゃが…」
「だがな、じぃさん。今回の完勝の裏には・・・」
モンタナが苦笑しながら言おうとすうと、
「影世界のイメンマハにおいて、大規模な戦闘があったのだ。ポウォールは兵力をイメンマハに集中し、正体不明の敵と激しく交戦した模様だったらしい。それでも、残置部隊でも6~800のポウォールを30名で蹴散らすのは見事といっていのではないのか、モンタナ?」
そう言いながらタイムティーを3つ抱えたアンドラスが、不敵に笑いながら鍛冶場へ入ってきた。
「アハトゥグ!(気をつけ)」
モンタナの号令と共にハダットと二人、アンドラスに対して直立不動の姿勢を取る。が、その目は笑っていた。
「お前達、わざとらしさにも程があるぞ!」
「とかいうアンドラス、俺達がポウォールに領収証を発行してきたお礼に、ハーブティーとは・・・さすがエイリ王国・タルティーン軍司令官だ」
片目にニヤリと笑うモンタナに、
「ハダット、なんとかならないのかしら?」
と呆れ顔で言うアンドラス。
「アンドラスよ、モンタナがこんな事を言わないと逆に心配するのではないのか?それはそうと、またいい香りのハーブティーじゃのぉ。儂がピエリックの店で仕入れたマフィンがあるから、ティータイムにするかの」
上官であるタルティーン軍司令官相手にざっくばらんな口調で返すハダットは、鍛冶場の奥にある戸棚からマフィンを持ってくると、粗末なテーブルに置いた。ハダットはアンドラスの招聘を受けてタルティーン軍専属鍛冶師として兵士達の武器の修理や製造を引き受けている。バンホールのアイデルン、そしてブラゴ平原でひっそりと鍛冶屋を営んでいたこのハダット。エリンの名鍛冶師として名高いこの2人の老人のうちの一人を、アンドラスが根気よく口説き落とし、タルティーン軍に招聘したのだ。ハダットは自らの名を売ることを極度に嫌い、また気に入らない客に対しては怒鳴り散らして追い返すほどの頑固な性格ではあったが、腕前はアイデルンを超えるとの評判もあり、また影世界での激戦を予想される中、並大抵の鍛冶師では軍の要望には応えられないと考えたアンドラスの機転でこのハダットが選ばれたのである。ハダットはタルティーンでもその腕を遺憾なく発揮し、多くのタルティーン軍兵士の武器の修理・交換を受け持ち、陰ながら遠征隊のエイリフ軍を支えている人物である。ハダットはアンドラスを上官として敬意を表しながらも自分の娘のように接しており、モンタナやアンドラスしかいない時だけは、上官部下の関係抜きに気さくに話しかける仲でもあった。アンドラスのタルティーン軍招聘交渉の中で、イメンマハの惨劇で亡くしたハダットの一人娘をアンドラスに投影しているのかもしれない。3人は椅子に腰かけ、アンドラスが持ってきたタイムティーとハダットのマフィンで簡素なティータイムを始めた。
「ところでアンドラス、その正体不明の勢力とは一体なんだ?」
タイムティーを啜りながらモンタナが訊ねると、
「私の予想だが・・・これではないかと考えている」
そう言ってアンドラスが上衣のポケットから取り出したのは、黒い手紙だった。
「こ、これは・・・アンドラスよ。『黒の手紙結社』が復活したというのか!?」
その手紙を見たハダットの表情が一変し、険しい顔になった。
「今から話す事はエイリフ軍内部でも、ペイタン司令官や元老王政錬金術師レノックスしか知らない事なので、口外はぜったいにしないよう。いいですか?」
「無論だ。超特級の軍機なら尚更だしな」
「儂とて同じじゃ。聖堂十字軍(テンプル・クルセイダーズ)の名に懸けて口外しないと誓おう!」
モンタナとハダットは真剣な表情で頷く。
「聖堂十字軍・・・ということは、第2次モイトゥラ戦争中に起こった黒の手紙結社追討軍にハダットもいたのですか?」
「うむ、若かりし頃の儂も義勇兵として参加したんじゃ。それはそうと、話してくれんか?」
「ええ、そうですね。ここ最近、タラにおいて王党派・教皇派の貴族やライミラク枢機卿、タラのライミラク関係者達が次々に暗殺されています。また、ポウォール側の名のあるコマンダー級士官達も次々と謎の急死を遂げているそうなのです」
「なんだと!」
アンドラスの言葉に衝撃を受けるモンタナ。
「殺された貴族や枢機卿には、必ずこの黒い手紙が送られ数日中・・・早ければ数時間後には殺されている、と報告されています」
「なんてこったい・・・」
戦慄を隠しきれないモンタナに、
「黒の手紙結社はのぉ、第二次モイトゥラ戦争時に突如として現れた秘密結社でな。丁度ヌアザ王がモイトゥラでクロウクルアフに敗死させられた頃に現れ、トゥアハ・デ・ダナンやポウォールに関係なく次から次に暗殺を繰り返していた集団でのぉ。それがまた、ライミラク教団内部から派生した事が知れ渡ると、戦況に絶望していた人々が黒の手紙結社が示す未来に惹かれて秘密裡に教団員が次から次に参加していくという事態に陥ってな。『黒の手紙結社』の究極の教義とは、【神の国を実現させるためには一度早急に、エリンを破壊しつくしてしまう必要がある】というものじゃ。やがて黒の手紙結社は規模を拡大し、一時はダンバートン・ティルコネイル・シドスネッターが奴らの手に落ちたのじゃよ。しかし、時のライミラク教皇・アレクシオス7世は激しく激怒、教皇自ら黒の手紙結社を殲滅するべく聖堂十字軍を立ち上げ、教団員やトゥアハ・デ・ダナン達に幅広く参加するように呼びかけたのじゃ。儂もその呼びかけに応じて、村の若者達と共にイメンマハの大聖堂に向かったな。エイリフ軍はポウォールとの戦いで余裕がなかったからのぉ。儂らが動かねば黒の手紙結社を潰せなかったからな。やがて、聖堂十字軍が結成されて、イメンマハからダンバートン奪回すべく出撃する聖堂十字軍に教皇アレクシオス7世が行った説教は、今でも儂の心に深く刻まれておる。教皇はこう言ったのじゃ。
『諸君らの本当の敵は、自分自身の中にある恐れである。ライミラクの為ではない、エリンの為に諸君らは命を賭して戦わなくてはならない!共に進もう!倒れても倒れても進むのだ。我々の子孫の為に!自らの中に潜む敵を打ち払い戦うのだ!』
儂らはオスナサイルの敵防衛線を突破し、ダンバートンへ猛攻を開始した。黒の手紙結社側も激しい抵抗を見せたが、トゥガルドアイル軍が北から来援してくれるとダンバートンは総崩れになり、そのまま追撃戦になったのじゃ。当時のトゥガルドアイル城主は熱心なライミラク教信者でイメンマハの教皇の演説を伝え聞き、感銘を受け来援に来たそうだ。やがてトゥガルドアイル城付近でも激しい戦闘を行い、黒の手紙結社を敗走させティルコネイルも突破し、いよいよシドスネッターに追い込んだ。黒の手紙結社の首謀者ライミラク教ティルコネイル大司教アナスタージウスは、シドスネッターで最後の決戦を挑んだがあえなく敗北。聖堂十字軍に生け捕りにされたのじゃよ。教皇からの厳命で、アナスタージウスを絶対自殺させるなと厳命を受けておっての。奴を異端者として裁判にかけ、火刑でもって悪禍断つつもりいたのだろうのぉ。その言葉通り、アナスタージウスはイメンマハで宗教裁判にかけられ、ここタルティーンの広場で火刑に処せられたのじゃ。奴は死ぬ間際まで呪詛の言葉を吐き続け、
『必ず蘇ってエリンを破壊しつくしてくれる!トゥアハ・デ・ダナン、そしてポウォールに死を!』
と、絶叫しながらその身を焼かれたと聞いているが・・・。まさか、黒の手紙結社が復活しているとはな。アンドラス、聖堂騎士団の動きはどうなっているのかの?奴らはアナスタージウス残党がルンダダンジョンに逃げ込み、組織を再構築したものが聖堂騎士団だと聞いておるが・・・」
「聖堂騎士団は既にミレシアンギルドがルンダダンジョンにおいて攻撃して、壊滅的損害を与えたと聞いているが・・・」
今まで黙って聞いていたモンタナがここで口を開いた。
「つまり、今回の一件は聖堂騎士団ではなく、全く別な何者かが黒の手紙結社を再結成し、再び活動を始めたというわけだな。黒の手紙結社はトゥアハ・デ・ダナンだけではくポウォールも敵視していることから、イメンマハでの戦闘は黒の手紙結社との戦闘ではないかと考えているのか?しかしだ、タラ・タルティーン以外に影世界の侵入口があるとすれば・・・一体どこなのだ?」
「斥候のエルフもそこまでは掴み切れなかったようだ。ハイドでなんとか接近で来たものの気配を感づかれて危うく難を逃れてこの情報をもたらしてくれたのだから、それだけでも上々と思わねばならないだろう。私も、斥候の報告や黒の手紙結社の経緯から、間違いなく黒の手紙結社とポウォールの戦闘だと考えている。が、あくまでも推測の域を出ない。そこでだ、モンタナ」
「俺達にティルコネイル・シドスネッター・イメンマハ・ダンバートン・バンホールなどウルラ大陸の現状をその目で確かめてきてくれ、という訳だな」
「ふっ、言うまでもなかったか。だが、タラには内密で動いてほしいのだ・・・それ故、元パンツァー・レーアのメンバーに数人を加えた5~6名で動いてほしい。更に、お前達は影世界で作戦実行中行方不明ということにしてほしいのだ」
「敵を欺くにはまず味方から・・・か?」
ハダットが眼光鋭く聞くが、
「それもあるが、かつての黒の手紙結社はライミラク教団内部から勃興した事を考えると、エイリフ内部に・・・という考えが拭い去れないのだ。人選はモンタナ、お前に任せる。早急に出発してほしい。ブラザー・モンティが居なくなってタルティーンの子供たちが寂しがるのは申し訳ないが・・・。光の騎士ルーと人気を二分するブラザー・モンティーさん」
「な、なぜそれを!」
アンドラスの言葉に目を剥くモンタナ。
「そのソース(情報源)はエイリフ軍の最高級機密事項につき、貴官に話すわけにはいかないな」
アンドラスとハダットがニヤニヤしながらモンタナを見ている。
「くっ、おまえら・・・」
苦虫をつぶした顔のモンタナ。
「我々の考えに理解を示して下さるアブネア公(アブネア城主・マンシュタイン公爵)には事の仔細を伝えてある。公もこの考えには賛成をされておられ、また陰ながらお前達の支援は惜しまないと申されておられる」
「そこまで話を進めていたのか・・・。わかった、なら在野のミレシアンギルドという触れ込みで動いた方が違和感ないだろう。俺一人ならともかく、数人で行動を共にするとなるとギルドでもないと、エイリフ諸隊や他のミレシアン達…そして黒の手紙結社に注意を引きつけてしまうからな。よし、メンバーに人選はあとで決めてアンドラスに報告するとしよう。そしてギルド名だが・・・」
「何かあるのか?」
ハダットが興味深そうに聞くと、
「シャルフ・クリンゲ(鋭剣)だ・・・」
「ほっほぉ、また砂漠の狐とは打って変わって渋い名前にしおるわい」
ハダットはニヤリと笑って白い歯をみせる。相当名前が気に入った様子である。
「わかったわ、あなたの名前でダンバートンのエヴァンには申請を出しておくから。いい、誰にも悟られないように、ここを出る事。いいわね?」
「タルティーン軍の特殊任務担当の俺達に、そう言う事を言うのはお門違いだぜ・・・」
「だったな、私とした事が今回は迂闊だったようだ」
苦笑を浮かべるアンドラス。
「アンドラス、留守の間はギルドを頼むぞ」
「ええ、心配しないで」
「それとじーさん、あの刀はまだ・・・だよな?」
「あれか・・・あれは簡単には出来る代物ではないぞ。お前が持ち込んだ図面を見て、あれは儂の人生全てを掛けて鍛えなくてはいけない刀・・・いや業物だと直感したからな。慌てるな、いざという時までにはお前に渡せるだろう。代わりに、お前のそのくたびれたタルティーントゥハンドソードの代わりにこいつを持っていけ!」
ハダットはそういうと、鍛冶場の奥から両手剣を持ってきた。
「こ、こいつは!」
「ハイランダークレイモア・・・。エンチャントはリッチクロコダイルを貼ってある。お前なら十分使いこなせるだろう。今回は少人数での隠密挺身の側面もあるからな。戻ったらタルティーンの酒場で一杯やろうぞ!もちろん、お前の奢りじゃがな!はっはっは!」
ハイランダークレイモアをモンタナに渡しながら、ハダットは大笑いを始めた。

旧パンツァー・レーアメンバーを主体としたギルド『砂漠の狐』選抜メンバー・・・ギルド『シャルフ・クリンゲ』はその日の深夜、誰にも見送られることなく静かにタルティーンを離れた。
『黒の手紙結社』の目的は一体何なのか?影世界のイメンマハを攻撃した意図とは?謎が謎を呼び起こす・・・。
マビノギ小説 Passion Play ~あるミレシアンの手記より~ 第5話
第5話 タルティーン防御戦『春の目覚め』作戦

「ギャンブル、各門の配置は問題ないか?」
「ええ、東門のウェイター、南門のウェイトレス、西門のホール係それぞれ配置完了。そして、斥候からの報告でもう間もなく各門にお客様到着予定よ」
「OK!」
エイリフ直属ギルド『砂漠の狐』ギルマス・モンタナはサブマス・ギャンブルの報告に軽く頷いた。ここは影世界のタルティーン城内の広場。ここにギルド司令部を置いたモンタナはこの広場で、ポウォールを一挙に殲滅しようと考えていた。ギルメン達を近接・弓・錬金術師の三職種混成の3チームに分け、3門同時にお客様を広場に案内するように指示を出していた。特に広場から距離が近い西門にはジャイアントのギルメンを数多く配置し、早すぎず遅すぎずエスコートするようにと厳命を下していた。と、そこへエイリフの軍服を着たギルメンのエルフが馬に乗って駆けつけてきた。
「ウェイターより歓迎委員会へ報告!お客様到着、現在応対中!」
「よし、焦らしつつ広場へご案内するように。マインの準備もOKだな?」
「ぬかりなく!マスターの指示通り、道中にランク9アイスマインをちらほら埋設してあります」
「わかった、気を抜くなとウェイター長のパーソンズに伝えてくれ」
「了解!」
エルフ兵は敬礼すると、馬に飛び乗り東門へと駆けて行った。
「マスター、南門のウェイトレスからも接敵の連絡をフクロウで知らせてきました!」
ギャンブルが少し顔を紅潮させながら報告してきた。
「ウェイトレス長・シュナイダーにも、まったりこちらにお迎えするようにと伝令を飛ばしてくれ」
「了解です!」
ギャンブルが伝令の用意を始めるべく、手の空いているギルメンに声を掛け指示を出しに動く。
「マスター、一体ポウォールはどれくらい来ると予想しているのですか?」
モンタナの指示で広場に設置されているかまどを使ってランク1アイスマインを作りながら、ギルドの魔法師チーム【クレイジー・ダイアモンド】のキャプテン・ウォーターズが興味深く訊ねた。
「そうだなぁ・・・俺達30名の約10倍以上は確実だな・・・5~600はいるのではないか?」
「な、なんだってー!マスター、あんたって相変わらず無茶な作戦考えるもんだぜ」
「ウォーターズ、頭を使え。いいか、このタルティーンの入り口は3つ。更に城内は狭いときている。3つに割れば200、しかし城門を200の敵が一気に突破出来ると思うか?」
「なるほどね!マスターは敵を分割してなおかつ狭い場所から少しずつ敵を誘いこんで撃滅するっていう考えなんだ!」
同じくアイスマイン作りをしている【クレイジー・ダイアモンド】メンバーの女魔法師・ギルモアが横から話に参加してきた。
「ギルモア、撃滅ではなくここに誘い込む事が一番肝要なんだぜ。それも、3方向同時にこの広場へ案内する事。そこで、お前達厨房メンバーがこんがり焼きあげるという大事なお仕事があるんだからな」
「マスターは、敵を引き寄せるために見かけ倒しの陣地戦ではなく、いささか死守する姿勢をみせて敵に我々が内部に入れては困る!という錯覚を引き起こさせるために、怪しまれない程度の抵抗をするようにと指示を出しているのよ。それにこの広場で一気に勝負を付けないとあたし達がチェックメイトされちゃうしね…」
伝令を送り出したギャンブルが、ウォーターズとギルモアに説明する。
「なるほど~・・・」
2人が感心していると西門からジャイアントの伝令が息を切らせて飛び込んできた。
「西門ホール係、お客様が有力部隊を同伴しており対応しきれない状態になってます!」
「ほぉ、ポウォールもやるじゃないか・・・。では、俺が行くとするか」
モンタナが伝令の報告を受けて自ら陣頭指揮を取るべく馬を用意しようとすると、
「待って、モンタナ。あなたが動いては歓迎委員会の指揮は誰が取るの?オーナーはここでしっかりお客様をお迎えするのがお仕事よ。ここはあたしに任せて!」
ギャンブルはそういうと素早くファルコンセイジに変身した。
「エルブンマジックミサイルで数減らしして、しっかりこっちへ引き付けてくるわ。モンタナはお迎えの準備を!さ、行くわよ!」
ジャイアントのギルメンと共に、愛用のウィングボウと矢筒を手に白虎に飛び乗ると西門へ駆けだしていくギャンブル。
「あいつもギルドに慣れてくれたもんだ・・・サブマスが板についてきた!うんうん、俺の手間が大分減ったぜ」
微笑を浮かべるモンタナに、
「マスター、ギャンブルちゃんに手を掛けたら俺が許さないぜ!ギャンブルちゃんは俺と・・・」
「ウォーターズ、口を動かす暇があったらさっさと防護壁作り手伝いなさいよ!」
ウォーターズがモンタナに軽口を叩くと同時に、ギルモアからカミソリより鋭い叱声が飛ぶ。
「ぶわははは、そういう軽い口調だからタルティーンの酒場女に毎日惨敗なんだよ。自称色男のウォーターズさん」
「マスター!作戦中です!!私語は慎んでください!!」
今度はモンタナにも叱声が飛ぶ。
「は、ハイッ!」
思わず声が裏がるモンタナに、周囲から爆笑の渦が沸き起こった。
「おまえら・・・、しっかり聞いてやがったのか」
「当然じゃないですかー!砂漠の狐ギルドメンバーだったら、こんな面白い話作戦中でも聞き逃せませんよ。ユーモアは人生の調味料だ!ってこの前、マスターが泥酔しながら絶叫してたじゃないですか!その場にいたアンドラス司令官が呆れておられましたよ!」
間髪入れず返ってきたギルメンの言葉に、
「なに!アンドラスにか!!ぬかった・・・あいつにだけは聞かれたくなかった。これでまた、無理難題がふっかけられる口実を作っちまったぜ」
モンタナのその一言で更に爆笑が広がった。作戦中は緊張の連続である。緊張は初歩的なミスを誘発する危険要因の一つであることをモンタナは十分承知していた。それだけに、いかに心地よい緊張感を保持しつつリラックスできる状態に持っていけるか?その状態こそ、実力を120%以上引き出せる事をモンタナは知っているからこそ、ギルドメンバーを最高のテンションに持って行かせて戦場で活躍させるように雰囲気作りをしている。この事実を知るのはサブマスのギャンブル、アンドラスのみである。そんな中、アイスマインの爆発音が各所からこだましてきた。敵が近づいてきた証拠である。
「よし、マインを広場の各所に埋設したら持ち場についてくれ。まもなくお客様が到着されるぞ」
それと同時に東門・南門からフクロウが手紙を届けてきた。ポウォールは数を減らしながらも確実に広場へ侵攻中との内容に、モンタナは満足した。そして騎乗したギャンブルも帰ってきた。
「マスター、西門のお客様が多かったからランク5アイスマインを一斉に投げ込んで数減らしして、エルブンマジックミサイルとフレイマー部隊で追い打ち掛けて適当な数に減らしてきたから。お客さん、完全に頭に血が上ってジャイアントのギルメン達と取っ組み合いしながらこちらに向かっているわ。マインもなんのその、見境がなくなるってこういうことなのねって言うのがよく分かったわ」
苦笑を浮かべながらギャンブルが話すとモンタナが、
「アラト錬金術師もいたんじゃないのか?」
「いたけど、シリンダー使わず殴り合いだからね」
「ふっ、人はそれを『匹夫の勇』という・・・というやつだな。よし、ウォーターズ。そろそろ準備を始めようか」
ギャンブルの言葉に不敵に笑うと、モンタナはウォーターズ達に魔法の詠唱を開始させた。
「ラジャー、マスター!よーしギルモア、メイスン、ライト、バレットおっぱじめるぜ!俺達【クレイジー・ダイアモンド】の本領発揮だ!」
「OK!」
「ひゃっはー、腕がなるぜ!」
「任せてください!」
「これより、爆発祭りを始めちゃいますよっと!」
4人がすかさず威勢のいい返事で応える。
「よし、他のメンバーは3門から引き付けてきたメンバーの受け入れ、そして退避準備に入れ!ファイアマジックシールドの準備も怠るなよ!対爆装備の再確認も忘れるな!」
ここにきて、緊張感が一気に高まってきた。モンタナの出す指示も矢継ぎ早に的確に厳しくなってくる。ウォーターズ・ギルモアはファイアボールの詠唱、メイスン・ライト・バレットはファイアボルトの詠唱を始めた。5人ともファイアボルトマスター・ファイアボールマスターでもあって火属性魔法の詠唱はお手の物であった。詠唱終了と同時に3方向からポウォールが広場へなだれ込んできた。各門のギルメンは待ち構えたギルメンの誘導で防護壁の中へ誘導され、広場はポウォールで埋め尽くされた。それを見たモンタナはニヤリと笑うと合図を送った。
「イッツ・ショータイム!」
まず弓師達が、広場に埋設されたアイスマイン目掛けて矢を放つと爆発が起こりポウォールの軍勢が大混乱を引き起こす。そこにタワーシリンダーから発射されたランク1サンダーの結晶が頭上に降り注ぐ。混乱のさなか、脱出を図ろうとするポウォールには容赦なく矢が射られ、ウォーターキャノンが放たれる。そこへ、魔法をチャージしていたウォーターズ達が満を持して魔法を放った。
「いっけぇ!合体魔法【クリムゾン・ノート】!」
ランク1ファイアボール2発とランク1フルチャージファイアボルト3発が大混乱のポウォールの頭上に放たれる。それらが一つになった時、猛烈な光と衝撃波が広場を含めタルティーン城内を襲った。
「ファイアマジックシールド展開!対爆装備の無いものは防護壁の内側へ退避、伏せろ!爆発、来るぞ!」
モンタナの絶叫のすぐ後に巨大な火球が広場目掛けて落下を始め、着弾した。その直後、最初の衝撃はとは格段に上の爆発と爆風、衝撃波がタルティーン城内に広がった。
「うわぁぁぁぁぁ」
あまりの衝撃の大きさに、ギルメン達も吹き飛ばされまいと必死になって爆風をこらえる。やがて数分が経過して、ようやく爆発がおさまり広場が直視できるようになったがその光景は異様というものだった。広場だった跡地には巨大なクレーターが形成され、当然そこにいたポウォール達は消滅していた。周囲の防護壁も全て破壊されていたが、ファイマジックシールドと防護壁により、ギルメン達へのダメージは軽微であった。ダスティンシルバーナイトの鎧で身を固めていたモンタナは、じっとクレーターを見つめていた。
「【クリムゾン・ノート】は使う場所が限られる諸刃の剣か・・・。だが、これを使っても戦況が変わる約束はどこにもないのが現実・・・」
「マスター、戦いはこれからですよ。不可能を可能に出来る!それがトゥアハ・デ・ダナン達であり、あたし達ミレシアンである。女神モリアンもきっと、同じ事を言われるでしょう。まずは小さな事からこつこつ積み上げていくことです。如何なる逆境でも、明るく楽しく、豪快に笑い飛ばして逆転させるのが『砂漠の狐』ギルドではないのですか?」
土埃で顔が真っ黒になったギャンブルが言ったのだが、モンタナはその言葉より真っ黒な顔のギャンブルが面白くて思わず爆笑してしまった。
「モンタナ・・・あんたってギルマスは!」
流石のギャンブルも三白眼になってウィングボウをモンタナに向けて矢を射る態勢に入る。
「ま、待ってくれサブマス!ぷっ!ギャンブル、お前のその汚れた顔は軍法会議ものの面白さだ!」
「殺す!」
完全にぶち切れたギャンブルがクラッシュショットをモンタナに放つ。そうはさせじとモンタナは馬に乗って逃走を始める。そんな光景を見て、ギルメン達はニヤニヤしながら見送っていた。
「あーあ、まーた始まったよ。あの二人、仲がいいのか悪いのかよくわからんが・・・」
ギルドの近接チーム【マジック・クリスチャン】キャプテン・パーソンズが呆れ顔でウォーターズの許へ歩いてくる。
「まぁ、あれがギルドをいい雰囲気に持って行っているんだし、エイリフ軍にいるって気がしないのは確かよね」
同じくギルドの弓師チーム【バッド・フィンガー】キャプテン・シュナイダーもハイランダーロングボウを手に集まってきた。
「この雰囲気だからこそ、我々もこうやって少人数ながら大多数の敵の撃滅に成功できるのでしょう。いわば、何でもあり!というべきなのでしょうか・・・」
ギルドの錬金術師チーム【タルカス】キャプテン・リオンも各キャプテンが集まった事に気がついて近づいてきた。
「ま、結果オーライってことさ。とりあえずこれで、アンドラス司令官率いる遠征隊もタラ南部解放は確実だろうし。この影世界のタルティーン周辺でも悪さする奴はしばらくはいなくなるだろうし、ここもエリンのタルティーン同様に前線基地が置けるんじゃないかな?マスターなら間違いなく言いそうだけどな。でも、ここの穴埋めは俺達でやらなきゃいけないんだろうな・・・」
ウォーターズの言葉にげんなりする3人。
タルティーン防御戦『春の目覚め』作戦はエイリフ側に一人の損害を出すことなく、ポウォール軍壊滅という歴史的な勝利で幕を閉じたのであった。
マビノギ小説 Passion Play ~あるミレシアンの手記より~ 第4話
第4話 ギルド『砂漠の狐』

 ウルラ大陸・タルティーン。エイリフ王国の最重要拠点にして西に王都・タラ、東にスリアブクィリンを擁するクィリン城、南にはネア湖を抱え、遠くダンバートンを望む位置にあるアブネアを統括するアブネア城と、エイリフ王国にとっての交通の要衝でもあり、またタルティーンは錬金術が盛んで錬金術師・ドレンの許で盛んに王政・在野の錬金術師達が日夜錬金術の修練や実験に明け暮れており、影世界への門でもあるストーンヘンジ北西にあり、エイリフの影世界への前線基地の役目も有している街である。そのタルティーン城内の北にある小高い丘に置かれたエイリフ軍司令部。その司令部敷地内の片隅にある鍛冶場からカキーンカキーンとハンマーをリズミカルに叩く音が聞こえる。そんな中、左目に黒い眼帯を付けた濃緑色のエイリフ軍服を身に付けた少年が、ゆっくりとした足取りで鍛冶場へと入っていく。
「ハダットじいさん、土産だ!」
少年はそう言って革袋を差し出すと、ハンマーをふるう老人に声を掛けて右目でニヤリと笑ってみせた。その老人は軍服の上着を脱ぎ、下着のシャツ姿だったがその体系は筋骨隆々、老人とは思えない体つきである。
「モンタナ、今回の作戦は意外に早かったな」
「ああ、今回はアンドラスから陽動でいいとは言われていたが・・・。やはり遠征隊の留守にポウォールがタルティーン強襲を企図する可能性は否定できなかったからな、あえて防御戦という形で影世界のタルティーン周辺のポウォール掃討を行ってみたんだが・・・これが大当たりでな。その土産がこれだ」
10歳の少年はそういうと、革袋をハダットに渡した。
「アラトの結晶が大漁だのぉ。モンタナ、転生直後のまま作戦に参加したのか?」
「無論だ。俺が行かなくて、奴らは仕切れんよ。ギャンブルでは奴らを持て余すしな」
「ああ、あのサブマスのエルフ娘か。あの娘っ子は生真面目だからなぁ・・・もう少し肩の力を抜けばのぉ」
「それでもあの娘は努力してるよ、痛いほどな。俺もそれは分かっているだけに連中には含み針飛ばしまくって、サブマスとギルメン連中がようやく馴染み始めたからな」
「お前も色々苦労してるようじゃな」
「苦労と思うから苦労に感じるんじゃねーか!ってじいさんの口癖だろうが!俺にそんな事言わせるとは、じいさんも歳か?」
「ぶわははは!こやつめ、年寄りをからかいおって!」
二人は顔を見合わせて爆笑しはじめる。
「よし、儂も一息入れるかのぉ」
ひとしきり笑い終えた二人は、阿吽の呼吸で鍛冶場の奥にある粗末なテーブルと椅子に腰をかけた。
「どら、その防御戦の戦況聞かせてもらおうじゃないか。お前はそのつもりで来たんじゃろうて」
「じいさんも、聞きたくてウズウズしていただろ!モイトゥラ戦争を思い出してまた血が騒ぎだしたんだろうが!」
「まぁ、年寄りをいじめるな。どれ、話をきかせてくれ…」
ハダットは上着を着ながら、モンタナの話に耳を傾け始めた。



タルティーン防御戦の話の前に、モンタナがギルマスを務めるギルド…エイリフ直属ミレシアンギルド・砂漠の狐について語っておく。
『砂漠の狐』設立は戦局の悪化がきっかけであった。当初、ミレシアンの潜在能力の高さに目を付けたエイリフ王国宰相・ファルツ公爵が国王エフル・マククル2世に上奏し、エイリフ王国直属のミレシアンギルドを結成させた。そのギルドこそがタラに本拠を置くエイリフ王国初のミレシアンギルド『黒十字騎士団』…別名『スワスティカ・リッター』である。ギルドマスター・メッサーシュミット、サブマスター・フルトヴェングラーとし、ファルツ公爵の庇護のもと成長を遂げ、ファルツ公爵主導の作戦において輝かしい功績をあげていた。しかし、影世界が発見されてタルティーン・タラにストーンヘンジが出現してからはタラ方面での作戦に忙殺され、タルティーン方面での動きは皆無になっていた。
丁度同時期、タルティーン司令部でも司令官ファロン、副司令官アンドラスの提案によりミレシアンによる『パンツァー・レーア』(教導団)を結成。ミレシアンの潜在能力はタルティーンでも遺憾なく発揮されており、タラの黒十字騎士団の活躍にも触発された事もあって即座に結成された。その教導団の団長を任されたのが、モンタナであった。モンタナを推挙した人物は、国王エフル・マククル2世のブレーンとして名高いアブネア公爵・アブネア城主マンシュタインである。年若い青年貴族であるが、タルティーンの重要性をいち早く看破しタルティーン軍設置を提唱、またファロン達の『パンツァー・レーア』結成を国王に上奏した人物でもあり、自らは国王に上奏してタラを離れイメンマハ・ダンバートン・タルティーンを繋ぐタルティーンに並ぶ要衝・アブネア城城主として着任、ダンバートン周辺のラビ・マスダンジョン、イメンマハ周辺のコイル・ルンダダンジョンのポウォールの動きを睨みつつ、タルティーン司令部との連携を密にして危急の事態に対処できるように城下の発展とミレシアン召募、城兵の調練に手腕を発揮している貴族としては珍しい行動派な人物である。そんな中、マンシュタインはアブネア城下で頭角を現していたモンタナを見いだし、パンツァー・レーアのリーダーに推挙したのだ。モンタナをリーダーにパンツァー・レーアがタルティーン軍兵士たちの調練を開始して間もなく、ファロンが影世界で行方不明・部隊は全滅という一報がタルティーンにもたらされ、アンドラスは劣勢下における戦力減少を恐れ、急きょパンツァー・レーアをエイリフ直属のミレシアンギルドに昇格させるべくマンシュタインと相談、危急の状況という事もありタラへは事後報告という形でエイリフ直属の2つ目のミレシアンギルドが結成された。それが、『砂漠の狐』である。ギルドマスター・モンタナ、サブマスター・ギャンブル。メンバーはパンツァー・レーアのメンバーがそのままギルドメンバーになったが、戦闘団として動くには絶対数が不足していた為、タルティーンでメンバー募集をかけモンタナ・ギャンブル・アンドラスの面接により選抜し、ミレシアンギルド『砂漠の狐』は結成された。
砂漠の狐は即座に影世界の前線へ投入され、アンドラス・グラナット・カルペン率いる遠征隊の支援部隊として、影世界のスリアブクィリンにおいてポウォールの交通遮断と補給線破壊、影世界のアブネアにおいてはタルティーンに侵攻するポウォール軍に奇襲攻撃をかけ壊滅に追い込み、クラウソラス練成阻止作戦においても遠征隊や作戦に参加したミレシアンギルド達と共に参加、レイモア・ジェナやミレシアンギルド達と共にタルティーン城内に突入、クラウソラス練成を阻止に成功した経緯がある。エイリフ王国内では砂漠の狐メンバーやミレシアン達を『影世界の英雄達』と呼んで持て囃していたが、モンタナを始めギルドメンバー全員がそれを激しく嫌悪しているのは皮肉としかいいようがないものである。
それは、タラを本拠にする『黒十字騎士団』に対する思いにも通じるものがあった。『黒十字騎士団』はエイリフのミレシアンギルドという立場ではなく、いわばファルツ公爵の私兵ともいうべき存在ではないかと王国内でも実しやかに噂されており、ギルマスのメッサーシュミットがそれを打ち消すのに必死になっているという話がセットでタルティーンにも流れ込み、砂漠の狐メンバーがタラの貴族嫌悪に拍車がかかったほか、エイリフ軍が一枚岩ではないのか?という疑念を在野のミレシアン達に印象付ける結果になった。

 クラウソラス練成を阻止したものの影世界の戦況は相変わらず苦しくエイリフ軍が支配下に収めている地域はタラとタルティーン、『背後の敵』作戦で打通が成功したコリブ渓谷で重兵をコリブ渓谷に置いて死守している状況下では、ポウォールにつけ入る隙を与えているに等しい状況であった。コリブ平原打通作戦【ワインの香り】失敗以降、タラ城外とコリブ平原境界の地域をポウォールに押えられ、常にタラが攻撃に晒される危険性を危惧したタラストーンヘンジ臨時司令部司令官・ペイタンはタルティーン軍司令官・アンドラスと協議し、遠征隊によるタラ南部掃討戦を企図。また同時に『黒十字騎士団』によるタラ城内に残るポウォール残党・アラト錬金術師学会の残党である堕落した錬金術師達の掃討戦も同時に行う、クラウソラス練成阻止以来の大規模軍事行動である。モンタナ達『砂漠の狐』ギルドはアンドラスの指示により影世界のタルティーンにおいて、周辺地域の掃討作戦を下命されたのだが…モンタナは手薄になったタルティーンにポウォールの強襲を警戒し、またポウォールの耳目をタラ南部からタルティーンに向けさせるため、そしてタルティーン方面の安全を図るために周辺のポウォールを引き寄せ一気に壊滅させる作戦を砂漠の狐ギルドのみで企図した。それが、モンタナがハダットに語ろうとしているタルティーン防御戦『春の目覚め』作戦であった・・・。




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